立入検査で教育記録が狙われる理由と結論
「立入検査が入ったら、うちの教育計画書や実施簿は大丈夫だろうか」——警備業者の管理者や指導教育責任者からよく聞く不安です。結論から言うと、立入検査で教育記録が指摘を受けるパターンはおおむね決まっています。①法定の時間数そのものが不足している、②計画書・実施簿・名簿の記載事項が欠けている、③保存期間を誤って早く捨てているの3つです。
立入検査は警備業法46条(報告の徴収)・47条(立入検査)に基づき、公安委員会の指定する警察職員が警備業者の営業所等に立ち入り、業務の状況や帳簿・書類を検査できる制度です。何をどこまで見られるかが分かれば、事前に点検しておくべき場所もはっきりします。以下、根拠条文とあわせて具体的なチェックポイントを整理します。
教育記録で問われる法定時間数|新任20時間・現任10時間の早見表
警備業法施行規則38条は、警備業務に就く前に行う新任教育と、毎年度(4月1日〜翌3月31日)行う現任教育の最低時間数を区分ごとに定めています。2026年時点の規定では次のとおりです(警視庁「警備員に対する教育時間」でも同じ時間数が示されています)。
| 対象者の状態 | 新任教育 | 現任教育(毎年度) |
|---|---|---|
| 未経験・無資格の一般警備員 | 基本+業務別 合計20時間以上 | 基本+業務別 合計10時間以上 |
| 直近3年に同区分で通算1年以上の実務経験あり | 合計7時間以上 | 同上10時間以上 |
| 直近3年に他区分で通算1年以上の実務経験、または元警察官(通算1年以上) | 合計13時間以上 | 同上10時間以上 |
| 検定(1級・2級)または指導教育責任者資格者証を他区分で保有 | 業務別のみ10時間以上 | 業務別のみ6時間以上 |
| 当該区分の検定・資格者証を保有 | 免除 | 免除 |
新任教育20時間の内訳や現任教育10時間の内訳は区分(1号〜4号・機械警備)によっても教育事項が異なります。また、新任教育の業務別教育は実地教育による代替が認められていますが、上限があります。たとえば業務別教育が6時間と定められている区分では、実地教育で代替できるのは教育計画上の時間数の2分の1、つまり6 ÷ 2 = 3時間までです(規則38条3項備考)。この上限を超えて「現場に出す=教育扱い」にしてしまうのは、よくある不備の一つです。
立入検査では、こうした時間数・区分の判定が自社で正しくできているかがまず見られます。自社の状況を確認したい方は、営業所の備付け状況を点検できる備付け書類8点チェックリストで、教育計画書・教育実施簿を含む8種類の書類がそろっているかをまず確認してください。
自社で確認すべき5つのチェックポイント
立入検査に備えて、次の順番で自社の教育記録を点検すると洗い出しがしやすくなります。
- 教育計画書が年度開始30日前までに備え付けられているか 施行規則66条3項により、翌年度(4月1日開始)の教育計画書は3月2日ごろまでに営業所へ備え付ける必要があります。「期が始まってから作る」はすでに遅刻です。詳しい書き方は教育計画書の書き方を参照してください。
- 教育実施簿に、計画と対応する実績が記録されているか 実施した年月日・内容・方法・時間数・場所・実施者・対象警備員の7項目(規則66条1項6号)が埋まっているか、指導教育責任者と実施者の確認欄が空欄になっていないかを見ます。
- 警備員ごとの年間累計時間が法定時間に届いているか たとえば現任教育10時間以上の対象者が営業所に5名いる場合、年度内に必要な実施記録は10時間 × 5名 = 延べ50時間分です。1人でも累計が不足していれば教育義務違反になり得ます。
- 警備員名簿に教育の実施状況が反映されているか 名簿にも実施年月日・内容・時間数・実施者氏名の記載が必要です(規則66条1項1号ロ)。実施簿だけに記録して名簿への転記漏れがある事業所は少なくありません。
- 保存期間内の書類を誤って廃棄していないか 教育計画書・教育実施簿は当該年度終了日から2年間、警備員名簿は当該警備員の退職後1年間の保存が必要です(規則66条2項)。
誤解しやすい3つの不備パターン
実務でとくに見落とされやすいのが、次の3点です。
- 「紙でなければならない」という誤解 規則67条により、記載事項が電磁的方法で記録され、必要に応じて直ちに表示できる状態であれば、クラウドやパソコンでの管理で書面に代えられます。立入検査の場で画面表示・印刷できれば問題ありません。
- 検定・資格による免除区分の取り違え 同区分の1級検定または指導教育責任者資格者証を保有していれば新任・現任ともに教育が免除されますが、他区分の資格では免除にならず、業務別教育(新任10時間・現任6時間)が必要です。区分がずれていないかを確認します。
- 実地教育の代替時間の超過 先ほどの計算例のとおり、実地教育で代替できるのは教育計画上の業務別教育時間の2分の1(区分によっては5時間または2時間が上限)までです。超えた分は教育実施簿上「教育」として認められません。
なお、個別の運用や様式の細部は事業所の実情によって異なるため、詳しくは管轄の都道府県公安委員会(警察本部の生活安全部局)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。
教育記録の不備は、法定時間の判定ミスから起きることがほとんどです。実際に自社の記録を確認してみたい方は、備付け書類8点チェックリストで営業所ごとの備付け状況を点検し、必要な書類を自主点検シートとして出力してみてください。記録自体をクラウドで一元管理したい場合は、14日間の無料トライアル(クレジットカード不要)で警備員ごとの累積時間と不足アラートを試すこともできます。
まとめ
- 立入検査で教育記録が指摘されるのは、①時間数不足、②記載事項の欠落、③保存期間の誤りの3パターンが中心
- 新任教育は原則20時間以上、現任教育は毎年度10時間以上(規則38条)。経験・資格により軽減区分がある
- 実地教育の代替は教育計画上の時間数の2分の1(例:6時間なら3時間)までが上限
- 教育計画書は年度開始30日前まで、教育実施簿・計画書は年度終了後2年間、名簿は退職後1年間の保存が必要(規則66条)
- まずは備付け書類8点チェックリストで営業所ごとの備付け状況を点検するところから始めてください
よくある質問
Q. 立入検査では教育記録のどこが中心に見られますか?
警備員ごとの新任・現任教育の累積時間が法定時間数(新任20時間・現任毎年度10時間、規則38条)を満たしているか、教育計画書と教育実施簿の記載事項に欠落がないかが中心です。あわせて警備員名簿への転記状況も確認されます。
Q. 教育計画書と教育実施簿、どちらが指摘を受けやすいですか?
どちらも指摘対象になりますが、教育計画書は「年度開始30日前までの備付け」という期限の見落としが多く(規則66条3項)、教育実施簿は実施者・指導教育責任者の確認欄の空欄や、時間数の累計不足が典型的な指摘点です。
Q. 保存期間を過ぎた教育計画書や実施簿はすぐに捨ててよいですか?
年度終了日から2年間は保存義務があります(規則66条2項)。この期間が過ぎるまでは廃棄せず備え付けておく必要があります。警備員名簿は当該警備員の退職後1年間です。
Q. クラウドやExcelで教育記録を管理していても立入検査に対応できますか?
対応できます。規則67条により、記載事項が電磁的方法で記録され、必要に応じて直ちに表示・印刷できる状態であれば、紙の書面に代えることが認められています。
Q. 実地教育はどこまで教育実施簿に「教育」として記録してよいですか?
教育計画上の業務別教育時間の2分の1(区分により5時間または2時間が上限)までです(規則38条3項備考)。これを超える現場経験は、教育実施簿上の時間数には計上できません。