「警備員指導実施簿」という様式、実は法律には存在しません
「警備員指導実施簿」で検索して自社の様式づくりを進めようとした管理者・指導教育責任者(警備員に対する教育・指導を統括する資格者)の方は、まずこの点を押さえてください。「指導実施簿」という名称の法定備付書類は、警備業法にも施行規則にも存在しません。 とはいえ「では何もいらないのか」というとそうではなく、実務でその名で呼ばれている記録には、ちゃんと作成義務があります。この記事では、その正体と、法律上どこに根拠があるのかを整理します。
結論:「指導計画書」+「実地指導の記録」が実態
結論から言うと、世間で「指導実施簿」と呼ばれているものの中身は、次の2つに分かれます。
- 指導計画書(警備業法施行規則66条1項4号)……営業所に備え付けが義務づけられた法定書類。警備員への指導に関する「計画」を記載する
- 実地指導の記録(施行規則40条1号)……指導教育責任者の法定業務として、指導計画書に基づき警備員を実地に指導し、その記録を作成することが定められている
つまり「実施簿」という名前の書類を単独で探すのではなく、「計画」と「その計画に基づいて実際に行った指導の記録」の2つがセットで必要だと理解するのが正確です。根拠は警備業法45条(警備員の名簿等)を受けた施行規則66条1項各号と、指導教育責任者の業務を定める同40条です。
なぜ混同が起きるのか:条文の作りに理由がある
この混同には理由があります。同じ66条1項の中で、5号は「教育計画書」、6号は「教育実施簿」と、計画と実施の記録が名称からして対になっているのに対し、4号の指導計画書には対になる「指導実施簿」という号がありません。教育側のペア(計画書・実施簿)と同じ発想で指導側を探すと、存在しない書類名にたどり着いてしまうわけです。
さらに、4号の条文は「警備員に対する指導に関する計画を記載した指導計画書」と定めるのみで、5号・6号のように記載事項が列挙されていません。記録の作成義務そのものは、備付け書類を定める66条ではなく、指導教育責任者の業務を定める40条1号(「指導計画書を作成し、その計画書に基づき警備員を実地に指導し、及びその記録を作成すること」)に置かれています。条文の場所が分かれているぶん、初めて確認する人には見つけにくい構造になっています。
指導計画書・実地指導の記録・教育実施簿の違い
似た名前の書類を整理すると、次のようになります(施行規則66条1項4号・6号、40条1号、66条2項に基づく)。
| 項目 | 指導計画書+実地指導の記録 | 教育実施簿 |
|---|---|---|
| 対象 | 警備員への「指導」(実地でのOJT的な関わり) | 警備員への「教育」(新任・現任教育) |
| 根拠条文 | 66条1項4号(計画)+40条1号(記録の作成義務) | 66条1項6号 |
| 記載事項の列挙 | 条文上の列挙なし(実務上の一例で構成) | 年月日・内容・方法・時間数・場所・実施者氏名・対象警備員氏名を列挙 |
| 保存期間の起算日 | 実地に指導した日から2年間(66条2項) | 当該教育期(年度)が終了した日から2年間(66条2項) |
| 電磁的記録 | 可(67条) | 可(67条) |
保存期間の起算日が異なる点が実務上の落とし穴です。教育計画書・教育実施簿・警備員名簿(退職後1年)とまとめて「年度末基準」で管理していると、指導計画書・実地指導の記録だけ保存終了日がずれ、早く廃棄してしまうことがあります。自社の様式・時間数の確認をあわせて済ませたい場合は、指導計画書テンプレート(実地指導の記録つき)で保存期間の違いごと様式を確認できます。
自社で確認・対応する手順
- 手元の様式が「計画」と「実地指導の記録」の両方を持っているかを確認する。教育計画書・教育実施簿の様式を流用して「指導」欄を1本にまとめているだけの場合、実地指導の記録が独立して残っていないことがあります。
- 保存期間の起算日を「実地に指導した日」で管理しているかを見直す。年度末基準の一括管理だと、指導関連の書類だけ期限がずれます。
- 指導教育責任者が実地指導を行うたびに、その場で記録しているかを確認する。対象となった警備員の氏名・指導事項・指導した場所・結果や所見まで残しておくと、あとから見返しても内容が分かります。
- 指導計画書と教育計画書を混同していないかを確認する。前者は施行規則66条1項4号、後者は同項5号で、どちらも独立した備付け義務があります(両者の違いはこちらの記事で詳しく扱っています)。
- 指導教育責任者の選任状況・4つの法定業務(指導計画・教育計画・記録の監督・助言)を全体像として押さえたい場合は、指導教育責任者の選任義務と法定業務もあわせて確認してください。
実地指導の頻度に決まった回数の定めはありませんが、対象となる警備員1人あたり年数回の指導記録を積み上げている営業所が多いのが実情です。仮に在籍する警備員が8名で、1人あたり年2回ずつ実地指導を行うとすると、8 × 2 = 16件分の記録が年間で発生する計算になります。指導教育責任者1人でこれを都度記録していく負担は小さくないため、様式をあらかじめ用意しておくことが実務の効率に直結します。
誤解しやすいポイント
- 「指導実施簿を作れば教育実施簿は不要」ではない:指導(施行規則40条1号・66条1項4号)と教育(同項5号・6号)は別の制度で、それぞれ独立して備付け・記録の義務があります。
- 記載事項の「決まった様式」は条文にない:66条1項4号は指導計画書の記載事項を列挙していません。市販・自作の様式は、40条1号が求める「計画」と「実地指導の記録」を満たす一例と考えるのが正確です。
- 保存期間の起算日は書類ごとに違う:指導計画書・実地指導の記録=実地に指導した日から2年、教育計画書・教育実施簿=年度終了日から2年、警備員名簿=退職後1年です。まとめて「2年でいい」と覚えると起算日を取り違えます。
- 電磁的記録は指導関連の書類にも認められる:施行規則67条により、記載事項を電磁的方法で記録し、必要に応じて画面表示・印刷などで直ちに表示できる状態であれば、紙の保管は不要です。
自社の運用がこれらの要件を満たしているか判断に迷う部分は、詳しくは管轄の都道府県公安委員会(警察本部の生活安全部局)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。
日々の指導・教育の記録をExcelや紙で個別に管理していると、警備員ごとの累積状況や保存期限の違いを追いきれなくなりがちです。教育記録をクラウドで一本化して管理したい場合は、14日間の無料トライアル(クレジットカード不要)で試すこともできます。
自社の様式を今すぐ整えたい場合は、指導計画書テンプレート(実地指導の記録つき・エクセル対応)で、計画欄と実地指導の記録欄がセットになった白紙様式を無料で作成・印刷できます。年度・営業所名を入力するだけで、保存期間の注記つきの様式が出力されます。
まとめ
- 「警備員指導実施簿」という名称の法定書類は存在せず、実態は「指導計画書」(施行規則66条1項4号)と「実地指導の記録」(同40条1号)の2つに分かれる
- 記録の作成義務は備付け書類を定める66条ではなく、指導教育責任者の業務を定める40条1号にある点が見つけにくさの原因
- 保存期間の起算日は「実地に指導した日」から2年間(66条2項)で、教育計画書・教育実施簿(年度終了日から2年)とは基準が異なる
- 教育(計画書・実施簿)と指導(計画書・記録)は別制度であり、様式を1本にまとめて済ませることはできない
- 自社の様式が要件を満たしているか不安なら指導計画書テンプレートで確認し、判断に迷う点は管轄の公安委員会や社会保険労務士に相談するとよいでしょう
よくある質問
Q. 「警備員指導実施簿」という様式を作れば、それで法定要件を満たせますか?
その名称自体は条文に存在しませんが、中身として「指導計画」と「実地に指導した記録」(対象警備員の氏名・年月日・場所・指導事項・指導者氏名などを含む)の両方を満たしていれば、実質的に施行規則40条1号・66条1項4号が求める内容を満たすことになります。名称よりも記載事項が揃っているかを確認してください。
Q. 指導計画書と教育計画書は同じものですか?
別の書類です。指導計画書は施行規則66条1項4号、教育計画書は同項5号に基づく別の備付け書類で、記載事項も対象も異なります。詳しくは教育計画書と教育実施簿の違いを解説した記事もあわせてご覧ください。
Q. 実地指導の記録の保存期間はいつから数えますか?
「実地に指導した日」から2年間です(施行規則66条2項)。教育計画書・教育実施簿の起算日(当該教育期が終了した日)とは異なるため、まとめて管理していると期限を取り違えやすい点に注意してください。
Q. 実地指導の記録もクラウドやパソコンで管理してよいですか?
認められています。施行規則67条により、記載事項が電磁的方法で記録され、必要に応じて電子計算機等で直ちに表示できる状態であれば、書面に代えることができます。立入検査の際に画面表示・印刷ができる状態にしておいてください。
Q. 指導教育責任者以外が実地指導を行ってもよいですか?
指導計画書の作成・実地指導・記録作成は、施行規則40条1号で指導教育責任者の法定業務として定められています。実務上の分担のあり方については、詳しくは管轄の都道府県公安委員会(警察本部の生活安全部局)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。