結論:教育計画書・教育実施簿は「営業所ごと」に備える。本社一括は不可
複数の営業所を抱える警備会社でよくあるのが、「教育計画書や教育実施簿は本社でまとめて管理し、必要なときに各営業所へ送ればよいのでは」という発想です。管理の手間を考えれば自然な発想ですが、結論から言うと、教育計画書・教育実施簿を含む法定の備付け書類は、営業所ごとに備え付ける必要があり、本社に集約しているだけでは不備になり得ます。
根拠は、警備業者に書類の備付けを義務づける警備業法45条と、その具体的な種類を定める警備業法施行規則66条です。同条1項5号が教育計画書、6号が教育実施簿を指しており、これは全国警備業協会が公開しているeラーニング運用の案内でも、「教育計画書」(警備業法施行規則第66条第1項第5号)及び「教育実施簿」(同項第6号)という形で明示されています。8種類の書類全体の一覧は営業所の備付け書類8点チェックリストで整理していますが、本記事では「営業所が複数ある会社」に絞って、何が営業所単位で必要になるのかを見ていきます。
なぜ営業所ごとなのか:立入検査は営業所を単位に行われる
理由は単純で、公安委員会による立入検査が営業所を単位に実施されるためです。本社の棚に全社分の教育計画書がまとまっていても、検査の対象になった営業所にその場で確認できる形で備わっていなければ、備付け義務を果たしているとは扱われません。
教育計画書には年度開始30日前までに備え付けるという期限があり、教育計画書・教育実施簿とも年度終了後2年間の保存が必要です。これらの期限・保存期間の数え方自体は営業所が1つでも複数でも変わりませんが、複数営業所の場合は「どの営業所の、どの年度分が、いつ切れるか」を営業所単位で台帳管理しないと、棚卸しが一気に煩雑になります。期限・保存期間の詳しい考え方は教育計画書の書き方と30日前ルール、教育記録の保存年数まとめで解説しています。
営業所が増えると何が変わるか:指導教育責任者と教育時間の管理単位
営業所が複数になったときにもう一つ見落とされやすいのが、警備員指導教育責任者(指教責)の選任単位です。全国警備業協会の案内にも、「警備業者は営業所ごと及び警備業務の区分ごとに警備員指導教育責任者を選任しなければなりません」と明記されています(警備業法22条)。つまり、本社に有資格者が何人いても、その資格者が各営業所で正式に選任されていなければ、その営業所の指導教育責任者が不在の状態になります。
教育計画・教育実施の管理単位も同じ考え方です。教育計画書・教育実施簿は営業所ごとに作成するため、ある営業所に在籍する警備員の教育は、その営業所の計画書・実施簿で管理するのが基本になります。本社が主導して複数営業所合同の研修を企画すること自体は問題ありませんが、記録はあくまで対象となった警備員が在籍する営業所の実施簿に残す、という整理が必要です。
計算例:営業所ごとに必要な教育機会を数える
言葉で説明しただけでは実感しにくいので、3つの営業所を持つ会社を例に、現任教育(一般の警備員は毎年度10時間以上)の年間の必要時間を営業所単位で積み上げてみます。
| 営業所 | 扱う区分 | 在籍警備員数 | 必要な指導教育責任者 | 年度の現任教育(延べ時間) |
|---|---|---|---|---|
| A営業所 | 2号(交通誘導) | 8名 | 2号の資格者 1名 | 10時間 × 8名 = 80時間 |
| B営業所 | 1号(施設警備) | 5名 | 1号の資格者 1名 | 10時間 × 5名 = 50時間 |
| C営業所 | 1号・2号 | 1号4名/2号2名 | 1号・2号の資格者 各1名 | 1号 10時間×4名=40時間、2号 10時間×2名=20時間、合計60時間 |
C営業所のように複数の区分を扱う営業所では、指導教育責任者も区分の数だけ必要になり、現任教育の必要時間も区分ごとに分けて積み上げる点がポイントです。仮にA営業所の新任教育で、業務別教育を8時間と計画した場合、実地教育で代替できるのは8÷2=4時間と上限5時間を比べて少ない方の4時間までで、残り4時間は講義・実技で行う必要があります。自社の営業所・区分・資格の組み合わせで必要時間を具体的に出したい場合は、教育時間チェッカーに数値を入れると判定できます。
自社で確認・対応する4つの手順
- 営業所の一覧と、各営業所が扱う警備業務の区分を洗い出す:本社・支社・営業所ごとに「どの区分(1号〜4号・機械警備)を扱っているか」を一覧化します。
- 営業所ごとに、区分の数だけ指導教育責任者が選任されているか確認する:資格者証の区分と、実際に選任されている営業所が一致しているかを点検します(22条)。
- 営業所ごとに教育計画書・教育実施簿が備わっているかを点検する:本社に原本があっても、各営業所で確認できる状態になっているかを見ます。自社の状況を確認したい方は、年度・区分を選ぶだけで記載事項を満たした様式を作れる教育計画書テンプレートで、営業所ごとに1枚ずつ作成してみてください。
- 複数営業所合同の研修を行う場合の記録ルールを社内で決めておく:誰の記録をどの営業所の実施簿に残すかを、研修の企画段階で決めておくと記録漏れを防げます。
誤解しやすい3つのポイント
- 「本社にまとめてあれば大丈夫」という誤解:備付け義務は営業所単位です。本社集約型の管理をしている会社ほど、立入検査で営業所側に実物がない状態を指摘されがちです。
- 合同研修の記録の帰属があいまいになる:複数営業所の警備員を集めて本社で研修をした場合、「本社の実施簿に書けばよい」と考えがちですが、実務上は対象者が在籍する営業所ごとに記録を分けて残すのが安全です。研修の形態や記録の分け方で迷う場合は、営業所単位の運用に正解が一つとは限らないため、詳しくは管轄の都道府県公安委員会(警察本部の生活安全部局)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。
- 営業所の統廃合で保存期間がリセットされると思い込む:教育計画書・教育実施簿の保存期間は年度終了日から2年間というルール自体は営業所の統廃合とは関係なく進みます。営業所を閉鎖・統合する際も、対象年度の記録は保存期間が切れるまで管理を引き継ぐ必要があります。
営業所が増えるほど、警備員ごとの教育時間の不足や、書類の備付け漏れを人力のExcelやファイルだけで追い切るのは難しくなります。営業所をまたいで警備員の教育記録をクラウドで一元管理し、不足があれば自動でアラートが出る仕組みは、14日間の無料トライアル(クレジットカード不要)で試すことができます。
まとめ
- 教育計画書・教育実施簿は、警備業法45条・施行規則66条1項5号・6号により営業所ごとに備え付ける義務があり、本社への集約だけでは不備になり得る
- 警備員指導教育責任者も営業所ごと×区分ごとに選任が必要(警備業法22条)
- 営業所が複数・複数区分にまたがる場合は、区分ごとに必要な指導教育責任者の人数と、現任教育(毎年度10時間以上)・新任教育(20時間以上)の必要時間を営業所単位で積み上げて管理する
- 合同研修を行う場合の記録の帰属など、運用で迷う点は自己判断せず管轄の公安委員会や社会保険労務士に確認する
- まずは教育計画書テンプレートや教育時間チェッカーで、自社の営業所ごとの状況を確認するところから始められる
よくある質問
Q. 教育計画書・教育実施簿は本社で一括管理してもよいですか?
備付け義務は営業所ごとなので、本社でまとめて作成すること自体は構いませんが、最終的には各営業所で確認できる状態になっている必要があります。本社保管のみで営業所に実物がない状態は不備とされ得ます。
Q. 1人の指導教育責任者が複数の営業所を兼任できますか?
指導教育責任者は営業所ごと・区分ごとに選任する必要があります(警備業法22条)。1人が複数区分の資格者証を持っていれば同一営業所内で複数区分を兼ねることはできますが、営業所をまたいだ選任の可否や実務上の扱いは、管轄の公安委員会に確認することをおすすめします。
Q. 本社主催の合同研修を行った場合、記録はどこに残しますか?
法令上は「営業所ごとの実施簿」という備付け単位が原則なので、研修を本社で行った場合でも、対象となった警備員が在籍する営業所の教育実施簿に、実施日・内容・時間数などを記録するのが実務上安全な整理です。
Q. 営業所を新設・統合したときに教育記録はどう引き継ぎますか?
既存の教育計画書・教育実施簿の保存義務(年度終了後2年間)は営業所の統廃合とは関係なく継続します。統合後の営業所でも、対象年度の記録を保存期間が切れるまで保管・引き継ぐ必要があります。