「警備員」に当たるかどうかは、肩書ではなく実際の業務で決まる
「現場に出ない事務職員や、現場経験のある役員にも、新任教育・現任教育は必要なのか」——立入検査の対応や教育計画書の作成を担当していると、こうした判断に迷う場面が出てきます。結論から言うと、警備業法上の「警備員」に当たるかどうかは、肩書や雇用形態ではなく「実際に警備業務に従事しているか」で決まります。この記事では、根拠条文と具体例を示しながら、自社のどの立場の人が教育対象になるのかを整理します。
結論:肩書ではなく「警備業務に従事しているか」で判定する
警備業法第2条第4項は、「警備員」を次のように定義しています。
警備員とは、警備業者の使用人その他の従業者で警備業務に従事するものをいう。
(警備業法第2条第4項)
ポイントは2つです。
- 「使用人その他の従業者」——正社員・パート・アルバイト・日々雇用など雇用形態を問いません。役員であっても、実際に警備業務に従事していれば「従業者」に含まれます。
- 「警備業務に従事するもの」——ここが分かれ目です。事務所で勤怠管理や請求書作成だけを行う事務職員、現場に出ず経営判断だけを行う役員は、警備業務そのものに従事していないため、原則として「警備員」には当たりません。
つまり、同じ会社の役員でも「現場に出て巡回や立哨を行う役員」は警備員に該当し、「経営・総務のみを担う役員」は該当しません。事務職員も同様に、受付業務の一環で来訪者の出入管理(警備業務の一部)を実際に行っているなら、その部分は警備業務に従事していると判断される可能性があります。自社の実態がどちらに当たるか迷う場合は、肩書ではなく「その人が実際に何をしているか」を一つずつ確認することが出発点になります。
警備業務そのものの範囲を確認する
「警備業務に従事しているか」を判定する前提として、警備業法が定める「警備業務」の範囲を押さえておく必要があります。警備業法第2条第1項は、警備業務を次の4号に区分しています(警備業法第2条第1項)。
| 号 | 警備業務の内容 | 通称 |
|---|---|---|
| 第1号 | 事務所・住宅・施設等における盗難等の事故発生の警戒・防止 | 施設警備 |
| 第2号 | 人・車両が雑踏する場所や交通に危険のある場所での事故発生の警戒・防止 | 交通誘導・雑踏警備 |
| 第3号 | 運搬中の現金・貴金属等に係る盗難等の事故発生の警戒・防止 | 運搬警備 |
| 第4号 | 人の身体に対する危害発生の、身辺における警戒・防止 | 身辺警備 |
この4号のいずれかに該当する業務を「他人の需要に応じて」行っている人が、警備業務に従事していることになります。逆に言えば、総務・経理・営業・求人対応など、この4号に当たらない業務だけを行っている人は、警備業務には従事していません。
教育義務は「警備業者」から「警備員」への義務——誰にかかるかを整理する
警備員教育の根拠は警備業法第21条です。ここで義務の向きを正確に理解しておくと、対象者の判断がぶれません。
- 第21条第1項:警備業者及び警備員は、警備業務を適正に行うようにするため、警備業務に関する知識及び能力の向上に努めなければならない(努力義務。警備業者自身と警備員の双方が対象)
- 第21条第2項:警備業者は、その警備員に対し、警備業務を適正に実施させるため、内閣府令で定めるところにより教育を行うとともに、必要な指導及び監督をしなければならない(具体的な教育の実施義務。対象は「警備員」)
(警備業法第21条)
つまり、具体的な教育時間数が定められているのは「警備員」に対してであり、先ほどの第2条第4項の定義に戻って「実際に警備業務に従事しているか」で対象者が決まります。この教育の具体的な内容・時間数を定めているのが警備業法施行規則第38条で、新任教育(警備業務に新たに就かせる前)・現任教育(毎年度)の2本立てです。
自社の該当者を一人ずつ当てはめて確認したい方は、資格・経験を入力するだけで必要な教育時間が分かる教育時間チェッカーを使うと、判定の取り違えを防げます。
自社で確認・対応する手順
役員・事務職員を含め、自社の誰が教育対象になるかを確認する手順は次のとおりです。
- 全従業者をリストアップする——正社員・パート・役員を含め、警備業務に関わる可能性がある人を漏れなく挙げます。警備員名簿(施行規則第66条第1項第1号)の対象者と重なるため、名簿作成時に合わせて確認すると効率的です。
- 各人の実際の業務内容を確認する——「何をしているか」を本人・現場責任者にヒアリングします。肩書だけで判断せず、実際に出入管理・巡回・誘導・護送などの警備業務(前述の第1号〜第4号)に従事しているかを見ます。
- 警備業務に従事すると判断した人を教育対象に加える——新任教育・現任教育のどちらが必要かは、その人が新たに業務に就くのか、すでに就いている(現任)のかで分かれます。新任教育は原則20時間以上、現任教育は毎年度10時間以上です(施行規則38条4項・5項)。
- 教育計画書・教育実施簿に反映する——対象者が確定したら、教育計画書に教育事項・時間数・対象者を記載し、実施後は教育実施簿に記録します。
- 判断に迷うケースは記録を残して専門家に確認する——「兼務で現場に数回しか出ない」「繁忙期だけ受付を手伝う」といった境界線上のケースは、判断の根拠(本人の業務内容メモなど)を残しつつ、最終判断は専門家に相談するのが安全です。
実際に時間数を計算してみましょう。たとえば、現場経験のある役員Aさんが交通誘導業務(2号)に新たに従事することになった場合、警備業務の経験がなければ基本教育+業務別教育で20時間以上の新任教育が必要です。一方、Aさんが直近3年でその区分の業務に通算1年以上従事した経験者であれば、7時間まで軽減されます(施行規則38条4項の表)。さらに、業務別教育のうち実地教育で代替できるのは、業務別教育時間数の2分の1または5時間のいずれか少ない方までという上限があり、業務別教育が6時間の場合は 6 ÷ 2 = 3時間 までが実地教育で代替できる上限です(同条3項備考)。肩書が「役員」であっても、計算の仕方自体は一般の警備員と変わりません。
注意点・誤解しやすいポイント
- 「役員だから教育不要」ではない——役員という肩書自体に教育の免除効果はありません。免除されるのは、就かせる業務と同じ種別の検定合格証明書や指導教育責任者資格を持っている場合などで、肩書とは無関係です(施行規則38条4項柱書)。
- 「事務職員だから対象外」と決めつけない——事務職員が受付業務の一部として出入管理(警備業務の一部)を実際に行っているなら、その部分は警備業務への従事に当たる可能性があります。業務分担表や実際の作業内容を確認しましょう。
- 指導教育責任者も「警備員」の一種である——警備員指導教育責任者は、教育を行う側ですが、自身も警備業務に従事する警備員としての資格者証交付を受けている立場です。教育する人だから教育対象から外れるわけではなく、資格者証に基づく免除規定が別途あるだけです。
- 保存期間の取り違え——教育実施簿・教育計画書は当該年度が終了した日から2年間の備付けが必要です(施行規則第66条第2項)。「作った年から2年」ではなく「年度終了日から2年」である点を取り違えないようにしてください。
- 判断が割れるケースは自己判断で終わらせない——「月1回だけ現場に立つ役員」のような境界線上のケースは、立入検査で指摘を受けてから対応すると手間が増えます。詳しくは管轄の都道府県公安委員会(警察本部の生活安全部局)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。
教育対象が確定したら、実際の教育計画・記録はクラウドで一元管理できます。ケイビログは14日間の無料トライアル(クレジットカード不要)で、警備員ごとの教育記録と不足アラートをすぐに試せます。
必要時間数の判定に迷う人がいる場合は、まず教育時間チェッカーで経験・資格・区分を入力し、新任・現任それぞれの必要時間と実地代替の上限を確認してから、教育計画書に反映する流れがスムーズです。
まとめ
- 「警備員」に当たるかどうかは肩書ではなく、実際に警備業務(第2条第1項の第1号〜第4号)に従事しているかで決まる(警備業法第2条第4項)
- 教育義務(警備業法第21条第2項)の対象は「警備員」であり、役員・事務職員であっても警備業務に従事していれば対象、していなければ対象外
- 新任教育は原則20時間以上、現任教育は毎年度10時間以上。経験・資格による軽減は肩書と無関係に適用される(施行規則38条4項・5項)
- 判断に迷う境界線上のケースは、実際の業務内容を記録に残しつつ、公安委員会や社会保険労務士に確認する
- 対象者が確定したら、教育時間チェッカーで時間数を確認し、教育計画書・教育実施簿に反映する
よくある質問
Q. 警備会社の役員は、全員警備員教育の対象になりますか?
いいえ、全員ではありません。警備業法第2条第4項の「警備員」は「警備業務に従事するもの」と定義されており、現場で実際に警備業務を行っている役員は対象になりますが、経営・総務のみを担う役員は対象になりません(警備業法第2条第4項)。
Q. 受付を兼務している事務職員も教育対象になりますか?
受付業務の一環として、来訪者の出入管理など警備業務(第2条第1項第1号に当たる業務)を実際に行っている場合は、その部分について警備業務に従事していると判断される可能性があります。業務内容を具体的に確認し、判断に迷う場合は管轄の都道府県公安委員会にご確認ください。
Q. 指導教育責任者は自分自身の教育も必要ですか?
指導教育責任者も警備業務に従事する「警備員」の一種であり、一般の警備員と同じく教育の対象になります。ただし、本人が保有する資格者証・検定の種別が就かせる業務と一致している場合は、施行規則38条4項柱書の免除規定が適用されることがあります。
Q. パートやアルバイトの警備員も教育の対象ですか?
対象です。警備業法第2条第4項は「使用人その他の従業者」と定めており、雇用形態(正社員・パート・アルバイト・日々雇用等)を問いません。実際に警備業務に従事していれば、新任教育・現任教育の対象になります。
Q. 教育対象かどうかの判断を間違えた場合、どうなりますか?
教育が必要な警備員に教育を実施していなかった場合、警備業法第21条第2項の教育義務違反として、立入検査での指摘や行政処分の対象になり得ます。判断に迷うケースは記録を残しつつ、早めに管轄の公安委員会や顧問の社会保険労務士に確認することをおすすめします。