警備業務を発注してもらうたびに「どこまで書面を作れば足りるのか」が曖昧なまま契約を進めている事業所は少なくありません。警備業法第19条は、契約前と契約締結時にそれぞれ別の書面を交付するよう定めており、記載事項も業務区分ごとに細かく異なります。本記事では条文の根拠を示しながら、自社で何を確認・作成すればよいかを整理します。
結論:契約前と契約締結時、2種類の書面が必要
結論から言うと、警備業法第19条は次の2段階の書面交付を義務づけています。
- 契約前書面(第19条第1項):契約を締結するまでに、契約の概要を記載した書面を依頼者に交付する
- 契約締結時書面(第19条第2項):契約を締結したときは、遅滞なく契約内容を明らかにする書面を交付する
いずれも警備業法第19条に根拠があり、具体的な記載事項は警備業法施行規則第33条・第34条で定められています。実務では、この2段階を合わせて「契約前後書面」と呼ぶことが多く、北海道公安委員会の行政処分公表でもこの名称で違反が整理されています。
契約前書面(19条1項)に記載する事項
施行規則第33条は、警備業務の区分ごとに契約前書面の記載事項を列挙しています。最も記載事項が多いのは、施設常駐などの第1号警備業務(機械警備を除く)で、業者情報・業務の日時・対象施設・人員・服装・使用機器・鍵の管理・事故時の措置・報告方法・対価・期間・契約の更新や解除・苦情窓口などを明記する必要があります。
| 業務区分 | 第33条上の固有の記載事項(共通事項に加えて) |
|---|---|
| 1号(施設警備等) | 対象施設の名称・所在地、鍵の管理 |
| 2号(交通誘導・雑踏警備等) | 業務を行う場所、場所での事故発生時の措置 |
| 3号(運搬警備) | 運搬対象物、運搬の路程、車列編成、運搬対象物の管理 |
| 4号(身辺警備) | 警備対象者の氏名・住所、危害発生時の措置 |
| 機械警備業務 | 基地局・待機所の所在地、機械装置の概要、待機所から現場までの路程または到着時間 |
自社の契約書式がどの区分に対応しているか不安な場合は、備付け書類8点チェックリストで営業所に備えるべき書類と条文の対応を一度確認しておくと、契約前書面の抜け漏れにも気づきやすくなります。
契約締結時書面(19条2項)に記載する事項
施行規則第34条は、契約締結時書面の記載事項を第33条の項目から抜き出す形で定めています。第1項は業務の内容に関する事項(第33条の業務時間・対象施設・人員・報告方法など)、第2項は契約締結年月日のほか、再委託・免責・損害賠償・契約の更新・変更・解除・特約といった契約条件に関する事項です。つまり契約前書面が「依頼前の説明資料」、契約締結時書面が「成立した契約の内容そのもの」という役割分担になっています。
なお、施行規則第33条1号ホには「警備員が有する知識及び技能」を記載する項目があります。この記載を裏付けるには、新任教育(基本教育+業務別教育で合計20時間以上、施行規則38条)や現任教育(毎年度10時間以上)の実施記録が実質的に必要になります。例えば業務別教育が6時間の区分で実地教育により代替できる時間は 6 ÷ 2 = 3時間 までで、現任警備員5名に毎年度10時間ずつ実施するなら 10 × 5 = 50時間 分の記録を備えておく必要があります。契約書面の整備と教育記録の整備は、立入検査では同じ場面でセットで確認される実務だと考えておくべきです。
電磁的方法による提供は可能か(19条3項)
結論としては可能です。第19条3項により、依頼者の承諾を得れば、書面交付に代えて電子メールやファイルダウンロードなどの電磁的方法で同じ事項を提供できます。施行規則第36条・第37条が具体的な方法(電子情報処理組織を使う方法、USB等の記録媒体に記録して渡す方法など)を定めており、依頼者が内容を出力して書面化できることが条件です。紙の原本を必ず郵送しなければならないわけではありません。
自社で確認・対応する手順
- 現在使っている契約書式を区分別に照らし、第33条・第34条の記載事項が抜けていないか確認する
- 契約前書面と契約締結時書面を別物として管理できているか(1枚の見積書で済ませていないか)を見直す
- 電磁的方法で提供する場合は、依頼者の承諾を得るフローと、出力・保存できる形式になっているかを確認する
- 契約条件(対価・期間・更新・解除・特約)に変更があった都度、書面を作り直しているかを確認する
備付け書類8点チェックリストを使うと、契約書面以外に営業所へ備え付けが必要な書類もまとめて自主点検できます。教育記録や警備員名簿の管理まで一括でクラウド化したい場合は、14日間の無料トライアル(クレジットカード不要)でケイビログの使用感を確認することもできます。
注意点・誤解しやすいポイント
- 契約前書面と契約締結時書面は別の条文・別のタイミングで求められるもので、どちらか一方を交付すれば足りるわけではありません。
- 第19条自体には交付した書面の保存期間に関する規定はありません。警備員名簿など別の書類の保存期間(施行規則66条等)と混同しないよう注意してください。
- 違反した場合は行政上の指示(第48条)や6か月以内の営業停止命令(第49条)の対象となるほか、書面不交付・不備・虚偽記載には100万円以下の罰金(第57条第4号)が定められています。
まとめ
- 警備業法19条は契約前書面(1項)と契約締結時書面(2項)の2段階の交付を義務づけている
- 記載事項は施行規則33条・34条で業務区分ごとに定められており、施設警備・交通誘導・運搬警備・身辺警備・機械警備で固有の項目が加わる
- 依頼者の承諾があれば電磁的方法での提供も可能(19条3項、施行規則36条・37条)
- 違反には指示・営業停止命令・罰金のリスクがあるため、契約書式を区分別に一度見直しておくことが望ましい
- 契約書面の整備は教育記録・名簿管理など他の備付け書類と合わせて点検すると漏れに気づきやすい
詳しくは管轄の都道府県公安委員会(警察本部の生活安全部局)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。制度は改正されることがあるため、最新の規定はe-Gov法令検索や公安委員会の公式発表で確認することをおすすめします。
よくある質問
Q. 契約前書面と契約締結時書面は1枚の書面で兼ねられますか。
2026年時点の規定では、第19条1項の契約前書面と2項の契約締結時書面は条文上別の交付義務として定められています。記載事項を両方満たし、交付のタイミング(契約締結前・締結後遅滞なく)をそれぞれ満たせるなら、実務上は様式を分けずに運用している例もありますが、どちらのタイミングで何を渡したかが後から確認できる形にしておくことが望ましいです。
Q. 見積書を契約前書面として使い回してもよいですか。
見積書に施行規則第33条が求める事項(業務の日時・対象施設・人員・報告方法・対価・期間・解除条件など)がすべて記載されていれば契約前書面として扱える可能性がありますが、一般的な見積書はこれらを網羅していないことが多いです。項目が不足していないか、第33条の号・イ〜ワの一覧と照らして確認することをおすすめします。
Q. 電磁的方法で提供する場合、依頼者の承諾はどのように得ればよいですか。
施行規則第36条は、電磁的方法で提供する際に依頼者の承諾を得る方法として、使用する方法の種類や内容を示して承諾を得ることを定めています。具体的な示すべき方法の種類・内容は施行規則第37条に定められているため、メール送付やダウンロード方式を採用する前に条文を確認しておくと安心です。
Q. 契約前後書面を交付しないとどうなりますか。
公安委員会による指示(警備業法48条)や6か月以内の営業停止命令(49条)の対象になり得るほか、交付しなかった場合や必要事項の記載がない書面・虚偽記載のある書面を交付した場合は100万円以下の罰金(57条4号)が定められています。実際に契約前後書面の不交付を理由に営業停止命令を受けた事例も公表されています。