現任教育を多く受けても来年度に繰り越せる?結論から解説
「今年度は忙しくて教育時間を分散できず、ある隊員には業務別教育を要件より多く受けさせてしまった。この超過分を来年度の必要時間から差し引いてもよいのだろうか」——教育計画を組む管理者や指導教育責任者からときどき聞かれる疑問です。年度末に時間が余ったり、逆に不足したりした経験がある方ほど、「多く受けた分は来年度に回せないか」と考えたくなります。
結論から言うと、**現任教育で多く受けた時間数を翌年度の必要時間数に充当する(繰り越す)規定は、警備業法施行規則上に存在しません。**現任教育は「毎年度」単位で区切られた独立の義務であり、警備業法施行規則第38条5項は、その年度ごとに基本教育・業務別教育を合わせて所定の時間数以上行うことを求めています。前年度にいくら多く実施していても、新しい年度が始まれば時間数はゼロからの積み上げに戻ります。唯一「繰り越し」に近い扱いに見えるのは、新任教育を行った年度に限って一部を重複実施しなくてよいという備考規定であり、これは翌年度以降には一切影響しません。詳しく見ていきます。
詳細説明:「毎年度」の意味と、繰り越しに最も近い規定
まず前提として、警備業者は警備業務に従事させようとする警備員に新任教育を行う義務(警備業法第21条2項、施行規則第38条4項)に加え、現に従事させている警備員には毎年度、現任教育を行う義務があります(施行規則第38条5項)。ここでの「年度」は会計年度と同じ4月1日から翌年3月31日までの1年間を指し、警視庁の案内や全国警備業協会の解説でも、現任教育は「年度ごとに」実施するものとして説明されています。
現任教育の時間数は、資格や従事業務との組み合わせで次のように分かれます(施行規則第38条5項の表)。
| 警備員の区分 | 現任教育の内容 | 年度ごとの時間数 |
|---|---|---|
| 一般の警備員(下記に該当しない) | 基本教育+業務別教育 | 10時間以上 |
| 検定合格者をその種別以外の業務に従事させている等 | 業務別教育のみ | 6時間以上 |
| 1級検定合格者をその種別の業務に従事させている | ― | 免除 |
| 指導教育責任者資格者証の区分と同じ業務に従事させている | ― | 免除 |
この表を素直に読むと、「年度ごとに」という言葉が繰り返されているだけで、前年度の実績を次年度に引き継ぐ仕組みは出てきません。実際に条文の備考欄を確認しても、繰り越しに関する記載はなく、唯一近い規定は次の2つです。
- 備考一:新任教育として基本教育を行った日の属する年度は、その年度の現任教育の基本教育を行わなくてよい。
- 備考二:新任教育として業務別教育を行った日の属する年度は、その区分に関する現任教育の業務別教育を行わなくてよい。
つまり「繰り越し」ではなく、新任教育を受けた"その年度に限って"現任教育の同じ部分が重複免除されるという規定です。たとえば4月に入社し新任教育(基本教育+業務別教育20時間)を終えた警備員は、その年度の現任教育(本来は基本教育+業務別教育10時間)を別途行う必要はありません。しかし翌年度になれば、この免除は終わり、通常どおり10時間以上の現任教育が必要になります。前年度に新任教育で多く時間を使ったからといって、翌年度の必要時間が減るわけではない点が、よくある誤解と異なるところです。自社の隊員がどの区分・時間数に当たるかを確認したい場合は、教育時間チェッカーに資格・経験を入力すると判定できます。
超過分の扱いを数字で確認してみます。ある警備員が今年度、要件6時間の業務別教育を9時間受けたとします。超過分を翌年度の必要時間数からそのまま差し引く、という規定は条文上ありません。翌年度もあらためて、その警備員が該当する区分の時間数(この例なら6時間以上)を満たす必要があります。また、在籍する一般の警備員が5名いれば、1人あたり10 × 5=50時間分を、年度ごとに繰り返し確保しなければならない計算になります。
自社で確認・対応する手順
来年度への繰り越しを前提にした計画は立てられないため、実務では次の順番で確認・記録していくと抜け漏れが少なくなります。
- 「年度」の範囲(4月1日〜翌年3月31日)を社内の教育計画書・教育実施簿の基準として統一する。
- **警備員ごとに、今年度の実施時間と不足・超過を棚卸しする。**超過があっても翌年度に引き継げない前提で、今年度中に必要時間を満たしているかだけを見る。
- **新任教育を行った警備員については、備考一・二の免除(その年度の現任教育の重複免除)が適用できるかを確認する。**適用できるのはあくまで新任教育を行った年度限りである点を記録に残す。
- 翌年度の教育計画書を、前年度の実績に関係なく、その年度分の必要時間数で新規に作成する。
- **四半期ごとに進捗を確認し、年度末に慌てて消化する運用を避ける。**一般の警備員であれば年度の必要時間10時間を4期に均すと、10 ÷ 4=2.5時間ずつが目安になります。
注意点・誤解しやすいポイント
現場でよくある誤解を3つ挙げます。
- **「多く受けた分は来年度に回せる」という思い込み。**前述のとおり、こうした繰り越し規定は施行規則上見当たりません。年度が変われば必要時間数はリセットされます。
- **新任教育を行った年度の重複免除(備考一・二)を、翌年度以降の繰り越しだと誤解してしまう。**この免除は「新任教育を行ったその年度」に限られ、次の年度には適用されません。
- **教育記録の保存期間(年度終了後2年間)と、年度ごとの時間数のリセットを混同してしまう。**記録は長く保存しますが、時間数の計算自体は毎年度ゼロからの積み上げです。
備考の適用範囲や、年度をまたぐ具体的な運用の細部は都道府県・事案によって確認事項が異なり得るため、詳しくは管轄の都道府県公安委員会(警察本部の生活安全部局)や顧問の社会保険労務士にご確認ください。
こうした年度ごとの積み上げを、紙やExcelの台帳で複数名分管理するのは手間がかかります。警備員ごとの累積時間と年度の不足をクラウドで自動的に把握できれば、繰り越しの有無を気にせず年度単位で確実に管理できるため、14日間の無料トライアル(クレジットカード不要)でケイビログの使用感を確かめてみるのも一つの方法です。実際に自社の警備員について、資格・経験の組み合わせから必要な時間数を確認したい場合は、教育時間チェッカーに入力してみると、該当する条文と時間数がその場で分かります。
まとめ
- 現任教育は施行規則第38条5項に基づき「毎年度」単位の義務で、前年度に多く受けた時間数を翌年度の必要時間数に充当する(繰り越す)規定は存在しない。
- 唯一近い規定は備考一・二の「新任教育を行った年度に限る」重複免除であり、翌年度以降には影響しない。
- 一般の警備員は年度ごとに10時間以上、検定・資格の組み合わせによっては6時間以上または免除になる。
- 超過分を来年度に回す計画は立てず、年度ごとに必要時間を満たす前提で教育計画書を作成する。
- 自社の区分・時間数の判定は教育時間チェッカーで確認できる。
よくある質問
Q. 現任教育で要件より多く受けた時間を、翌年度の必要時間から差し引けますか。
できません。施行規則第38条5項には、前年度の実施時間を翌年度に充当する規定はなく、現任教育は年度ごとに独立して必要時間数を満たす必要があります。
Q. 「年度」とは具体的にいつからいつまでですか。
4月1日から翌年3月31日までの1年間です。警視庁の案内でも、現任教育は年度ごとの実施として説明されています。
Q. 新任教育を行った年度は、現任教育をしなくてよいと聞きましたが本当ですか。
本当ですが、範囲が限定されています。施行規則第38条5項の表の備考一・二により、新任教育として基本教育・業務別教育を行った日の属する年度に限り、現任教育の同じ部分を重複して行わなくてよいとされています。翌年度には適用されません。
Q. 年度をまたいで教育時間が不足した場合、どうなりますか。
教育義務違反として、公安委員会からの指示処分等の対象となり得ます。不足分を翌年度にまとめて行えば問題ないという規定はないため、不足が判明した時点でできるだけ早く実施し、記録を残すことが重要です。詳しくは管轄の都道府県公安委員会にご確認ください。